研究概要 |
近年軽水炉燃料の高燃焼度化にともなって,ジルカロイ中への水素吸収量が増大し,使用温度の300℃でも溶解度を超えた水素が水素化物として析出する状況になっている。最近,従来にはなかったタイプの燃料破損が見られるようになったが,これらは何らかの機構で水素が関連していると考えられている。われわれは多量の水素を含むジルカロイ中の水素化物の溶体化・析出挙動を研究してきたが,この中で見出した水素化物に関連する応力緩和現象を定量的に調べることは挙動解析上重要と考えられる。本研究では水素を含ませたジルカロイ-2板材を用いて,クリープおよび応力緩和現象を調べモデル化することを目的とした。ジルカロイ圧延板から,長手側面が管の軸に垂直な面に相当する集合組織をもつようにリボン状の試料を切り出し,約10,80,250ppmの水素を含む試料を調製した。これを200℃から350℃の温度範囲で次の2種類の方法で応力を付加し,変形挙動を測定した。いずれの場合も応力は降伏応力よりも低い200MPaとした。すなわち 1)片持梁の曲げ応力付加による応力緩和実験(この場合は表面最大応力を200MPaとした。) 2)単軸引張りによるクリープ実験 1)では試料先端に付けたミラーによるレーザ光の反射によりたわみ量を非接触で測定した。また2)では変位量を5ミクロンの感度をもつ変位計で連続的に計測した。時間に対する変位は遷移クリープ的挙動を示し,温度,水素量に依存するが,1)では約60分,2)では約10分でほぼ定常に到達する。変形後の試料長手側面の光学顕微鏡観察では,本研究で新たに定義した方向性水素化物指数,F'45値を用いて応力に垂直方向の水素化物析出が増加していることが定量的に示された。 今後は変形挙動を,時間,温度,応力,水素量についてモデル化し,水素化物の歪場を考慮して定量的に検証することを試みたい。
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