研究概要 |
我々の研究室では,メダカ胞胚より分離した全能性を持つ細胞を培養し,各種の細胞増殖因子などの効果を検討した。その過程で,メダカ胚より樹立され長期間継代培養を行っている細胞株の培養上清(conditioned medium)を添加したところ,多数の胚細胞が規則的に収縮を繰り返す心筋へと分化することを見出した。この研究の目的は,上に述べた培養上清に含まれる因子を同定することである。昨年度の研究で分化誘導のバイオアッセイを行うための条件を決定し、安定なアッセイ系を確立することができた。今年度においては,培養上清に含まれる因子の精製を目的として研究を行った。多量の培養上清を硫安分画したのち,活性を含む部分をさらに各種のクロマトグラフィーで分画した。精製が進むにしたがって活性が失われる困難があったが,これはタンパク質が壁面に吸着するためであることがわかり,またそれを回避する方法が見出された。このため,精製をさらに進めることができ,現在約40,000倍程度に精製されている,まだ単一のタンパク質を得るところまでは到達していないが、近い将来その目的が達成できるものと考えている。これまでこの因子の分画精製から得られている知見は,このタンパク質は塩基性で弱いヘパリン結合性を示し,またその分子量は約2万と推定される。こうした性質には,これまで知られている細胞増殖因子や分化因子とは異なる点があり,その特異な機能と合わせて新規のタンパク質である可能性があると考えている。今後さらにこの因子の精製を進め,単一タンパク質として得られたらそのアミノ酸配列を決定し,その情報をもとに遺伝子をクローン化する方向で研究を進めていく予定である。
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