心臓の正常ポンプ機能には心拍毎の心筋・心室壁の適切な周期的収縮弛緩が不可欠である。その力学的収縮弛緩には、心筋の興奮収縮連関(心筋膜興奮によるカルシウム流入、筋小胞体からのカルシウム放出と取り込み、流入カルシウムの細胞外への除去など)が必須である。この際のカルシウム動員量を拍動心において計測や推定することは既存の方法では不可能であった。そのような背景の下で、本研究では、本代表者がこれまで開発してきた心臓の医工学原理に基づく心機能学の新しいフィジオーム的概念を基に、拍動心収縮に動員されるカルシウム量(これは現在普及しているエクオリンやフラ2などによる遊離カルシウム濃度の50-100倍に当たる)を心臓力学エネルギー学的に推定する方法を開発・確立しようとするものである。その骨子は、定常心拍中に1拍だけ不整脈として期外収縮を挿入して、その後に起きる期外収縮後収縮性増強の減衰時定数から、心筋内外を巡るカルシウム量の比率(それを心筋内カルシウム再灌流率と呼ぶ)を求めて、無負荷収縮に使われる酸素消費と組み合わせて、動員されるカルシウム量を求めることである。実際にこの方法の有効性、実用性を検討するために、昨年度に引き続き、理論的考察や動物実験データを用いての検討を行った。その結果は、方法論的にはほぼ問題なく、実測データが比較的安定に計測できた。後ろ向きに過去のイヌで得られた実験データを元に検討したところ、予想以上に再現性、信頼性のあるカルシウム量が推定値として得られた。従って、今後は実験条件を広範囲に変えて、本法の有用性や限界の詳細な検討が必要となった。
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