研究実績の概要 |
本研究は,P. Grice, Studies in the Way of Words (1989, Harvard University Press)による分析を下敷きに,言語的コミュニケーションと非言語的コミュニケーションを統一的に捉える枠組みを構築することを目標としていた.第一年度に,そのための第一歩としてグライスの理論を再検討し,それが適切な基礎を与えるかどうかを確認していた.だがその結果として,当初の想定に反し,グライスの理論には重大な欠陥があるという可能性が発見された(第一年度研究報告,および第一年度,第二年度の業績において報告).それゆえ第二年度では,当初予定していた,グライスの理論を下敷きにしたさらなる理論の精緻化という課題ではなく,グライスの理論の問題点の再検討と,グライスの理論やそれに基づく諸理論とは異なる基礎理論の構築へと向けられた.そのうえで,本年度は前年度に得た着想をまとめた論文や学会における発表,および前年度に提出していた博士論文「心理的であり公共的である意味について」の審査を通じて,前年度の着想を発展させ,より強固なものとすることに向けられた. 報告者は「記号主義的」と言えるアプローチを採用する論者の理論を検討し,取り入れる道を探った.記号主義的アプローチとは,話し手の意味のほとんどは推論ではなく,規約やコードによって決定されているという立場である.報告者はこの立場のもとで,発話というものがさまざまな規約やコードからなる複合体であり,それらの意味が合成されることで話し手の意味が形成されるのではないかという展望を得るに至った. 報告者は現在博士学位論文を出版に向けて改訂中であり,本年度に得られた着想はそれに組み込まれる予定となっている.
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