マルブランシュ哲学における自然学の位置づけ、とくに自然学が形而上学の諸理論と結ぶ関係を調査するという本研究の課題のもと、採用第三年度においては物体の存在論について検討した。 17世紀の存在論において広く共有された基本概念に実体と様態があるが、自然学で扱われる物理的対象、すなわち物体についてこれを存在論的にどう捉えるかについては、大きく分けて二つの立場があった。デカルトのように実体と捉えるか、あるいはスピノザのように様態と捉えるかである。マルブランシュは従来から指摘されるようにデカルト陣営に立ち、物体=実体論者であるが、特に晩年の「メランとの往復書簡」での議論を検討し、そこに現代で言うところのactual parts theoryを確認した。全宇宙を構成する延長の任意の部分は実体なのである。スピノザ主義者であるメランからはこの主張に対して様々な批判が寄せられたが、マルブランシュはこれに自身の自然学ないしそれを支える実体論の枠内では論理的に答えることができておらず、自然学の基本的対象である物体について、マルブランシュの存在論には脆弱さがあることが確認された。 ともあれ、物体=延長の部分、延長の部分=実体という存在論的立場のもと自然学を構築するマルブランシュであるが、このようなデカルト的自然観には反対者が多くいた。その中でも興味深いのがレジスであり、彼は明白なデカルト主義者でありつつも物体=様態説を唱え、物体を(性質の基体ではなく)性質そのものと捉えた。この立場のもと展開される彼の自然学を『哲学体系』(1690年)の読解によって確認し、17世紀終盤という時代のなかでマルブランシュの自然学を批判的に検討するための土台作りを行った。 以上の検討作業によって得られた研究成果については、まことに残念なことではあるが年度内に発表を行うことができなかった。今後積極的に公表していきたい。
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