研究実績の概要 |
本研究では、生物有機金属錯体であるウラシル-金(I)錯体の配列制御を行った。ウラシル誘導体に種々の配位子を有する金(I)錯体を導入することでウラシル部位を有する金(I)錯体を合成し、ウラシル-金(I)錯体の金(I)-金(I)相互作用の誘起についてX線結晶構造解析による検討を行った。配位子としてフェニルイソシアニドを有するウラシル-金(I)錯体では、ウラシル部位とフェニルイソシアニド部位のπ-π相互作用によりhead-to-tail型の二量体を形成し、分子間で金(I)-金(I)相互作用を示すことが明らかとなった。また、ウラシル部位間やフェニルイソシアニドのベンゼン環部位とウラシル部位間での水素結合により二量体同士が会合したネットワーク構造を形成していることも明らかとなった。一方で、強固な骨格を有するジホスフィン配位子であるXantphos及びR-BINAPを用いた二核ウラシル-金(I)錯体では、分子内での金(I)-金(I)相互作用が観測された。さらに、金-金間を軸とした不斉軸が存在し、Xantphosを有する二核ウラシル-金(I)錯体ではR体とS体のエナンチオマーが、R-BINAPを有する二核ウラシル-金(I)錯体ではR,R体のみが存在することが明らかとなった。また、パッキング構造ではXantphosを有する二核ウラシル-金(I)錯体はウラシル部位間の分子間水素結合により、R体とS体が交互に繋がった会合体を形成することが観測された。一方で、R-BINAPを有する二核ウラシル-金(I)錯体はウラシル部位間の分子間水素結合によりR,R体が会合したホモキラルな会合体が左巻きらせん構造を形成することが観測された。以上の結果から、配位子の効果により、金(I)錯体部位の配列が制御され、金(I)-金(I)相互作用の誘起や金-金間への軸不斉の導入が可能であることが明らかとなった。
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