北海道のシマフクロウ集団では遺伝的多様性の低下や地域集団の分化が生じていることが、これまでの研究で示唆されてきた。現在の北海道シマフクロウの集団構造形成の歴史的な経緯の解明のために、個体数減少以前の古い剥製サンプルを含めて、マイクロサテライトおよびミトコンドリアDNA配列の分析を行った。その結果、集団の有効集団サイズが1980年前後に非常に小さくなったこと、それ以前には地域間の交流が存在していたが、その後生息地の断片化によって地域集団の孤立が生じたことが示された。さらに、過去30年間の400個体以上を対象とした解析により地域ごとの遺伝的多様性の変化や近親交配の程度をより詳細に推定した結果、近親交配が特に多い地域や一部の個体の移動が明らかになった。これらの結果をまとめた論文はZoological lettersに掲載決定となった。今年度はロシア産のサンプルも加えて分析を行い、系統関係や遺伝的多様性の比較を行った。 遺伝的多様性の減少は感染症等への抵抗力の低下をもたらす恐れがある。そこで、当初の計画に加えて、免疫反応に関わる主要組織結合遺伝子複合体(MHC)の多様性についても研究を行った。定量PCR法を応用した分析の結果、シマフクロウのMHCの遺伝子座数は、一般的な鳥類や他のフクロウ類に比べて多いことが明らかになった。また染色体マッピングの結果、MHC遺伝子は単一の微小染色体上に位置することが明らかになった。これは、MHC遺伝子群は1つの染色体上の小さな領域内で重複していることを意味する。シマフクロウではMHCクラスⅡの遺伝子座数は多いが、対立遺伝子の種類は少ないことが示され、シマフクロウの保全のためには免疫力の低下についても注意が必要であることが示唆された。
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