研究実績の概要 |
ドナー分子TTFにピリジンが結合したTTF誘導体配位子4-[2-tetrathiafulvalenyl-ethenyl]pyridine(以下TTF-py)を用いて、空孔を有する電荷移動錯体の合成を試みた。まず、基本ユニットとなるCu(hfac)2(H2O)x (x = 1, 2)とTTF-pyからドナー性を有する金属錯体Cu(hfac)2(TTF-py)2(以下錯体1)を得た。錯体1を種々のアクセプター分子と組み合わせたところ、クロラニル誘導体では中性、F4TCNQではイオン性、TCNQやF-TCNQでは部分電荷移動を示唆するUVスペクトルが得られた。TCNQ系を中心に再結晶法や電解合成法などによる単結晶化を行っているが、現在のところ、単結晶は得られていない。 磁性伝導体(DIETSe)2MBr4xCl4(1-x) [M = Fe, Ga; 0 < x < 1]について、種々の物性測定を行い、電子状態について詳細に調べた。この系はドナー分子と四面体アニオンがヨウ素結合でつながった超分子ネットワークをもち、本研究課題の基盤となるものである。各混晶の伝導度測定より、Brが増えるほど絶縁層が抑制され、金属相が安定化されることがわかった。これは通常とは逆の化学圧力効果に相当する。構造について詳細に調べたところ、Brの増加に伴い、カラム間の相互作用が大きくなることが示唆された。この変化の要因は、ドナーとアニオンの間の特異なヨウ素結合を通し、隣接するカラムのドナー間距離がアニオンサイズによって変化するためであるということが明らかとなった。こうしたヨウ素結合による伝導性の制御は、本研究により初めて発見された。また、詳細な磁気測定より、混晶系では反強磁性転移温度のみならず、飽和磁場や反強磁性相境界磁場、磁気異方性についても連続的に変化していることがわかった。
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