研究実績の概要 |
本年度は能動文におけるカクチケル語VOS語順の産出メカニズムを明らかにするために2つの実験を行った. まず, 1つ目の実験としてカクチケル語話者を対象に, 動作主と被動者のアクセシビリティを操作した産出実験を行った. また, 実験の結果, 動作主のアクセシビリティを高めた条件においてより多くVOS語順が産出される傾向が観察された. アクセシビリティの高い要素はアクセシビリティの低い要素よりも早く処理される傾向にあるため, VOS語順の産出では動作主の処理が被動者の処理よりも先に行われる必要があることが示唆された. 2つ目の実験として, カクチケル語話者がVOS語順で事象 (e.g., 女の子がボールを投げる) を産出する際の眼球運動を測定した. また, 実験の結果, カクチケル語話者がVOS語順を産出する際には, 最初に動作主を注視する傾向が観察された. 一般的に, ある要素に対する注視はその要素の語彙処理を反映していると考えられており, カクチケル語話者はVOS語順を産出する際に文末で産出される動作主から処理が行われていることが示唆された. これらの実験結果から, 能動文におけるカクチケル語VOS語順の産出では, 文内要素の処理順序と産出順序が一致しておらず, 文末で産出される動作主から先に処理が行われていると考えられる. これまでの研究では普遍的に先に処理された文内要素が文の早い位置において産出されると考えられてきた. しかし, カクチケル語VOS語順の産出処理はこのような一般化に対する反例であり, 今後は, なぜ処理順序と産出順序が一致しないのかに関する詳細な検討が必要であると考える。
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