私は昨年度までに「赤方偏移5以上の遠方宇宙における成熟した大質量銀河の探査」を行ったが、今年度はその結果の研究会での発表、および論文執筆を行った。赤方偏移5とは宇宙の歴史におけるごく初期段階に対応するため、そうした時代に既に進化が進んだ銀河が同定されたことは驚きをもって迎えられた。それだけに本研究の解析手法、特にスペクトルエネルギー分布(SED)解析における改良の余地について、数多くの研究者から意見をいただいた。それに伴い再解析し、最終的に赤方偏移5以上の大質量成熟銀河候補天体を計3天体同定した。年齢・星質量・数密度などの比較から、それらが別の手法で近年発見されている爆発的星形成銀河の子孫であるということも示唆した。これらの議論をまとめて学位論文にした。Astrophysical journalへの投稿までおこなった。銀河進化理論モデルの国内研究者グループとこの観測結果を再現するためのモデル構築について議論し、彼らのモデルコードの今後のアップデートに反映してもらうことになった。 環境依存性に関しても、上記の研究で見つかった3天体に対して特殊な環境にいないかを調べたが、赤方偏移5の環境依存性については顕著な結果を得られなかった。これは環境を定義するための銀河の赤方偏移決定精度が不十分で、正しく数密度場を再現できていないためだと考えている。低赤方偏移の成熟銀河の環境依存性探査に関しては、赤方偏移2.4の原始銀河団領域における成熟銀河の分光観測を共同研究の形で進めた。元々の研究計画書にある赤方偏移1〜2原始銀河団超広視野探査については、探査領域が2014年から稼働したすばる望遠鏡Hyper Suprime-Cam(HSC)のサーベイ領域に入ったため、そのデータを待つ判断をした。一方ですばる望遠鏡MOIRCSで追加データを取得しHSC観測後の本格的解析に備えた。
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