本年度の研究計画では二つのテーマを掲げた。 1世阿弥時代の子どもの能について 2金春禅鳳の研究 前者ついては『雲雀山』と『国栖』の作品研究を行い、後者については作品研究ではなく、禅鳳の著『禅鳳雑談』の考察に変更した。『雲雀山』は世阿弥の『申楽談儀』に詞章が見えることから、成立は世阿弥と同時代かそれ以前と考えられている比較的古い子どもの能で、能と天皇制の問題を考える上で重要な作品と考えられる。能と天皇制の問題は、「成人の人物を演じる子ども役者」という能特有の演出と関係がある重要なテーマである。本研究では作品論を通してこの問題の意義を問い直し、「子方」という能の子ども役者の全体像を捉えることを目的の一つとしていた。その延長で、『国栖』の作品研究に取り組んだ。『国栖』は天皇の役として子方が登場する能の代表作である。能の子ども・稚児の表象と天皇制の関係を考察する上で、『雲雀山』と『国栖』の比較ははずせなかった。この研究は今後博士論文を執筆する際中心となる能の中の天皇制に関する考察の基礎にあたる。また、後者のテーマである金春禅鳳の研究では『禅鳳雑談』の読みを通して、禅鳳の作である修羅能『生田敦盛』について、他の修羅能との比較から検証してみた。禅鳳が修羅能をどうとらえ、そこからなぜ『生田敦盛』のような作品が生まれたのか、その作者の意識を分析した。 この二つのテーマの他に、前年度で滞っていた観世長俊の作品研究の一部をすすめた。長俊作の『岡崎』という稚児の切合能に関する考察である。この作品は神能と切合能が融合した独特の構成で、先行する子どもの能とも異なる新しい構想の能である。『岡崎』どのような点が新しく個性的であるのか、他の類似する作品との比較を通して検討した。これについては、平成27年6月20日の能楽学会大会にて発表を予定している。
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