本研究の成果は以下の二点にまとめられる。 第一に、昨年度に引き続き、2014年4月から2014年8月まで、主にカンボジア北西部村落部を調査地としてフィールドワークを実施し、研究資料を収集した。世帯調査や参与観察を通じて1979年以降の農地所有の実態や稲作を中心とした生業活動を明らかにした。それによって、現在の水田がある場所はかつての森や戦場であり、戦場は人々の生活空間に隣接していた、あるいは生活空間に含まれていたことが分かった。また、調査地周辺の幾つかの地名はポル・ポト時代や内戦期の出来事に由来するものであり、こうした地名の由来についても探求した。さらに、現地アシスタント二名とともに調査地周辺の様々な場所に赴き、各場所で過去に起こった出来事に関して彼らと報告者の間で交わされる会話ややりとりをビデオカメラで記録し、彼らが語るあり方がいかに場所や環境と関わり合っているのかを検討した。 第二に、「記憶」や「歴史」といった概念を論じた人類学や隣接分野の文献を渉猟し、その理解を深めた。また、現地調査で得られた資料を分析するために、「場所」や「ランドスケープ」について論じた人類学的文献も渉猟した。以上の文献調査を通じて、カンボジア社会についての人類学的研究のテーマのひとつである「復興」という問題を歴史叙述の問題として捉え、この「復興」という枠組みそれ自体の再検討も試みた。 現在は、京都大学人文科学研究所の共同研究「トラウマ経験と記憶の組織化をめぐる領域横断的研究―物語からモニュメントまで」の成果論文および博士論文を執筆中である。
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