研究実績の概要 |
本年度は以下の内容について成果を挙げることができた. “遷移金属合金の異常ホール効果に関する理論研究“ 近年磁気工学分野で注目を浴びているスピンオービトロニクスは,電子の運動がスピン軌道相互作用(SOI)を介してスピン自由度と相関を持つことに着目し,電場によりスピン自由度の制御を目指す分野である.異常ホール効果(AHE)は,SOIに起因したスピン依存の伝導現象として,最も古くから知られている現象である.その理解は物理的観点と共に,近年ではスピンオービトロニクスとの関連から応用的観点においても重要である. 今年度は第一原理計算を用い,異常ホール伝導度σxyに関する理論的評価を,様々な遷移金属合金に関して実行した.特にAHEは,電子の散乱に起因する外因性機構と散乱に依らない内因性機構の物理的起源が異なる二つのメカニズムの和として生じる特徴を持つ.そのため,本研究では各物質のσxyがどちらに起因するかに着目して評価を行った. 計算の対象として,(a):Ni系合金で電子数が類似なNi(1-x)Z(x)(Z=Co,Ni,Mn)合金,(b):デバイス材料として応用が期待されるFePt,FePd合金を候補とした. まず(a)に関しては,電子数が等しい場合,内因性機構は3つの合金でほぼ等しいのに対し,外因性機構は3つの合金で寄与が異なり,全体のσxyも外因性機構の差から3つの合金で異なることが判明した.これは,散乱に依存する外因性機構は内因性機構に比べ,各合金中の電子の緩和時間等,より微視的な性質に依存するためと考えられる.また,(b)については,FePtは内因性機構が主要であるが,FePdは外因性機構が主要であり,2合金でσxyの物理的起源が異なることが判明した.(a)同様に,この起源の差を各合金の微視的性質から考察した.
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