研究概要 |
細胞内で発生する過酸化水素がシグナル伝達物質として機能することが分かっているが、シグナル伝達物質として生産される過酸化水素の動態(濃度, 拡散挙動など)は解明されていない。本研究では、過酸化水素と特異的かつ高速に反応する金属酵素(ペルオキシダーゼなど)や機能モデル金属錯体に着目し、金属錯体を「過酸化水素との反応点」として利用した高感度な蛍光プローブの開発を目指している。 本年度は、金属錯体を利用した過酸化水素蛍光プローブ(MBFh類)の開発と細胞応用に向けた分子構造の選別に関する研究を行った。具体的には水中で高活性に機能する錯体触媒の開発と既報の蛍光プローブMBFhの培養細胞内での使用を目指し、新たな金属錯体型過酸化水素蛍光プローブMBFh2およびMBFh3類を開発した。本年度報告した単核非ヘム鉄錯体Fe (mpaq)錯体触媒は、過酸化水素を酸化剤とした色素の酸化反応を水中で効率的に触媒することがわかった。得られた知見よりシグナル伝達物質として生産される過酸化水素の時空間イメージングを目指し, Fe (mpaq)錯体触媒の構造を用いた金属錯体型過酸化水素蛍光プローブMBFh2を開発した。金属錯体と過酸化水素による酸化反応で生成する赤色蛍光色素レゾルフィンを利用して過酸化水素を検出するMBFh2は, 細胞内の過酸化水素をμMオーダーで可視化でき、細胞内でのMBFh2と過酸化水素との反応条件を詳細に検討することで5μMのMBFh2を用いた場合に、上皮成長因子刺激によってA431細胞が生産する過酸化水素を細胞内で観察できることを見出した. さらにMBFh2骨格の過酸化水素蛍光プローブとしての一般性と過酸化水素のマルチカラーイメージングを目指し, 緑色の蛍光色素フルオロセインを用いる高感度過酸化水素蛍光プローブMBFh3類の開発も行った. MBFh3もMBFh2と同様にHeLa細胞内の過酸化水素を可視化できることを見出した。以上の結果より、本年度は培養細胞内で使用可能な金属錯体型過酸化水素蛍光プロープの開発と細胞内での過酸化水素の可視化に成功した。
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