研究概要 |
応力拡大係数は応力腐食割れ事象等のき裂進展評価に用いられる破壊力学パラメータであり, 線形弾性材料のき裂先端近傍の応力状態を表すパラメータである. 応力腐食割れは特に溶接部周辺で発生および進展するが, 溶接部には複雑な残留応力分布と硬さ分布が存在する. そのような領域のき裂先端においては, 残留応力勾配および硬さ勾配が存在しており, それらの勾配はき裂先端の応力状態に影響を与え, 応力拡大係数が適用できなくなる可能性が考えられる. 著者はこれまでに, 急峻な残留応力勾配が存在する時, その周辺で応力拡大係数の適用が不適切となることを報告している. 本研究では, もうひとつの要因である硬さに焦点を当て, 硬さ勾配が存在する時の応力拡大係数の適用性評価と, 応力拡大係数が適用できない場合のき裂進展評価法の確立を目的とする. 平成25年度においては, き裂進展経路中に硬さ分布を有する場合について, その勾配が応力拡大係数の適用性に与える影響を解析的に検討した. 中央き裂を有する2次元有限平板を想定し, き裂進展経路中に降伏応力分布を与え, その分布の勾配を変えて応力拡大係数の適用性を解析した. ここで降伏応力は硬さと比例関係を持つパラメータである. 応力拡大係数の適用性は, き裂先端近傍応力状態の弾性解である応力拡大係数の, 弾塑性解からの逸脱割合を評価することで行った. 弾塑性解析モデルとしては, Dugdaleモデルを採用した. その結果, 急峻な降伏応力分布勾配が存在する時, その周辺で応力拡大係数の適用が不適切となることが明らかとなった. これはすなわち, 溶接部周辺の急峻な硬さ分布を有する領域では, 応力拡大係数によるき裂進展評価は適切ではない可能性があることを示すものである. この研究成果は, 学会で報告するとともに, 学術雑誌に投稿し査読を経て掲載された.
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