研究実績の概要 |
フェムト秒レーザーを金属に照射した場合のアブレーション率に関する報告はレーザーを金属に垂直入射した場合に限られており、レーザーを斜入射した場合のアブレーション率については入射角度と偏光から求まる反射率を考慮にいれて議論されている現状にある。しかし、本研究でフェムト秒レーザーを斜入射した場合のアブレーション率のレーザーフルーエンス依存性を種々の金属(Cu, Ti, Mo, W, Pt, Au)に対して調べることによって、反射率の議論だけでは正しく斜入射のアブレーション率を議論が出来ないことが明らかになった。一次元二温度モデルから導出される従来の説明では、アブレーション率を決める指標の一つとして光の侵入長が用いられてきた。光の進入長は入射角度による変化が極めて小さく偏光に依存しないことが知られているが、本研究結果では従来光の侵入長として説明されてきたパラメータが入射角度と偏光に大きく依存した。特に、S偏光照射時には垂直入射に比べて小さくなり、アブレーション率のフルーエンス依存性も反射率の変化だけを考慮に入れた議論からは大きく異なる。フェムト秒レーザーは照射点周囲への熱影響が少ないことや、アブレーション率1nm以下という極薄アブレーションが可能なこと、自己組織的に波長以下の周期間隔をもつ溝構造を形成することができることなどから付加価値の高い加工への応用が期待されており、制御性向上の観点からアブレーション物理機構の詳細が求められている。本結果は従来のモデルではフェムト秒レーザーアブレーションが説明できないことを明らかにし、フェムト秒レーザーアブレーションの物理機構を構築するための重要な結果である。
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