研究概要 |
平成25年度は, 「複合味の刺激に伴う顔の皮膚血流応答からおいしい・まずいを評価できるか?」を検証した. 本研究結果を以下の学術論文にて報告した. Kashima H, Hamada Y, Hayashi N (2014) Palatability of Tastes Is Associated With Facial Circulatory Responses. Chem Senses. 39 (3) : 243-248. 【研究の概要】 複合味を与えた際でも, おいしい・まずいに応じて顔の皮膚血流応答が特異的に変化するのかについて検証した. 刺激には, センブリ茶, チリソース, コーヒー, オレンジジュース, コンソメスープ, 水を用いた. 各溶液5mlを被験者15名の口腔内へ投与した. 刺激前と刺激中に顔の皮膚血流および血圧を測定した. 顔の皮膚血管コンダクタンス(CI)は, 平均血流速度を平均血圧で除すことにより算出した. チリソース, オレンジジュース, コンソメスープの刺激中, 瞼のCIが増加した. 一方, センブリ茶の刺激中, 額, 頬, 鼻のCIが低下した. チリソースには辛味成分であるカプサイシンが含まれており, 顔全体の皮膚血流を増加させるため, そのデータを除いて解析を進めたところ, 瞼のCIとおいしさの程度との間に有意な相関関係が認められた. 複合味を与えた場合でも, 顔の皮膚循環応答により食べ物の味やおいしさを客観的に評価できる可能性が示唆された. 応用的には, 臨床や介護場面において, 意思疎通の困難な者(例えば重症筋萎縮硬化症や筋ジストロフィーの患者)の味覚を客観的に判定でき, 個人の嗜好に合った食事を提供することができると考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
今年度行った実験の成果を論文にし, その論文を受理することができたことは期待以上の成果であった. 加えて, 現在, これまでの研究成果を博士論文としてまとめているところである. 平成26年度5月に学位を修了する予定である. 標準年数よりも早い(2年2か月)学位取得であることから, 計画以上に研究が進展したと自己評価した.
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今後の研究の推進方策 |
被験者数の増加および対象者の年齢層の拡充が本研究の解決すべき点である. 医療福祉現場では, 対象となる患者は若齢者から高齢者までと幅広い. 顔の血流や血管応答の変化には, 自律神経調節機能と顔の血管機能の両者が影響し, これらの調節機能は加齢に伴い衰えることが広く知られている. したがって, これらの調節機能が減弱した者では, 顔の血流応答から味覚に伴う幸福感や嫌悪感を観察することは困難となる可能性がある.
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