研究実績の概要 |
昨年度までに明らかにした, Lats2とヒストンメチル化酵素複合体であるポリコーム抑制複合体2(PRC2)の機能相関について、本年度は(1)より詳細な分子生物学的な解析と、(2)Lats2ーPRC2軸の生体内における役割の考察という、ふたつのアプローチによりさらに検証した。
(1)昨年度樹立したLATS2ノックアウト(KO)細胞株を用いた生化学的な解析により、LATS2はPRC2の構成因子であるEZH2, SUZ12をクロマチン上でリン酸化することが明らかになった。またEZH2のヒストンメチル化活性はLATS2によるリン酸化により正の制御を受けることも示された。またLATS2のホモログであるLATS1との比較解析から、クロマチンにおけるPRC2の制御におけるLATS2特異性も明らかにした。 (2)LATS2 KO細胞と野生型細胞を用いて次世代シークエンサーによるRNA-seqやChIP-seqを実施し、LATS2の欠失に応じたトランスクリプトームやエピゲノムの変動を網羅的に解析した。LATS2ーPRC2軸による影響が大きな遺伝子群には神経分化や神経機能の発現に関わるものが多く含まれることが明らかとなり、LATS2はPRC2を介して神経系の未分化性の維持に寄与するという示唆を得た。またこの考察を神経系のがんに展開し、膠芽腫について国際的がんゲノミクスプロジェクトのひとつであるTCGAのデータの解析を行った。するとLATS2の発現が高い症例ほどPRC2による転写抑制が強く、全体として未分化様の遺伝子発現パターンを持ち、予後不良を示すことが明らかとなった。
本年度はこれらの結果を国内学会にて口頭発表により発信した。また本研究内容は原著論文として投稿中である。
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