研究実績の概要 |
銀行をはじめとする金融仲介機関は、世界中の資本市場で大きな影響力を持っている。その影響力を考慮すると、金融仲介機関の経営者が選ぶ投資戦略は、資本市場全体を揺るがす問題となりうる。実証研究に目を向ければ、投資家保護が弱い国では経営者はリスクを控える投資戦略を取る傾向があるのに対し、投資家保護が強い国では積極的にリスク投資を行う傾向がみられた。そこで私の研究「Managerial Reputation, Risk-Taking and Imperfect Capital Markets」では、この事象を説明するための理論モデルを構築した。分析した結果、投資家保護が強い国ほど、経営者は自身の評判を高めることを目指し、より高いリターンを求めてリスクをとることが示された。この結果は、法整備が進んだ国ほど、投資に成功した人たちと失敗した人たちの所得格差が大きくなることを示唆している。
2007年に起こった世界金融危機は、多くの企業の株価暴落や倒産をもたらし、企業間で所得格差を拡大させた。この危機の背後には、経営者による過剰なリスクテイクがあったと考えられており、市場による規律付けがうまく機能しなかったことを示している。投資家は過剰なリスク投資をする企業には資金を融資したくないので、企業が投資家から資金を集め続けるためには、健全な投資を行い、企業の評判を打ち立てる必要がある。このように、企業が自身の評判を気にしていればリスクの取り過ぎを控えるはずである、というのが市場による規律付けを期待する人々の考えであった。そこで、私の研究「Reputation acquisition in imperfect financial markets」では、なぜ評判による規律付けがうまく機能せず、経営者が無謀な投資を行ったのか、という問いに取り組んだ。この論文では、金融市場の発達および世界的な低金利という、近年の金融市場における2つの大きな変化が原因であると主張している。
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