研究実績の概要 |
平成27年度は,不適切な養育発生のメカニズムの解明のうち,1)母親の認知の歪みや偏りを引き起こす要因,2)子どもの年齢から見た不適切な養育発生モデル,3)子どもの多動や行動問題と母親の認知・感情・行動プロセスの関係,の3点を解明するために,幼児を育てる一般の親および保育者に対する質問紙調査(研究3),幼児を育てる母親(何らかのリスクを持つ親を含む)に対するビデオ映像を用いた面接調査(研究4)を実施した。研究結果の概要は以下の通りである。 研究3:2~6歳児の保護者590名の質問紙回答および園児154名の保育士による行動評価。パス解析の結果,2~3歳児では,反抗や拒否行動が「この先も長く続く」と母親が認知するほど母親の苛立ちは強まること,このような認知は第一子の子育てに多く見られることが示された。また,2~3歳児と4~5歳児の養育に共通して,育児の困難場面において「自分はうまく対応できない」と母親が認識する傾向,「子どもが親を困らせるために行った」という認知の歪みは母親の怒りや嫌悪感情を強めることが示された。さらに,子どもの行為の問題と母親の不適切な養育行動との関連が示された。 研究4:分析対象は,幼児を育てる母親(何らかのリスクを持つ親を含む)31名の語りのテキストデータ。テキストマイニングによる内容分析の結果,アタッチメント回避高群の母親は,低群と比較して子どもの"甘えたい""かまってほしい"といった欲求を認知しにくいことが示唆された。対応の難しい場面において,アタッチメントの個人差は,子どもの欲求に対する母親の適切な推測を困難にする可能性がある。今後は,母親の帰属や欲求推測の個人差を生み出す仕組みについて検討することが課題である。 本研究を通して,不適切な養育発生における母親の内的プロセスを実証的に示した意義は大きく,理論の発展と子育て支援への応用に貢献したといえる。
|