研究課題
特別研究員奨励費
私はインスリン、インスリン様成長因子(IGF)の細胞内シグナルを仲介する分子、インスリン受容体基質(IRS)の量制御機構に着目し、それを介したインスリン/IGFの応答性調節機構の解明を目的に研究を進めてきた。本年度は、IRSの下流分子の活性の阻害やIGFシグナルのフィードバック機構の破綻によりIRSが高発現し、シグナルが過増強されている癌細胞を探索するため、1. mTOR阻害剤rapamycinで前処理後、IGFで刺激したがん細胞におけるAktのリン酸化の検討、2. IGFで刺激したがん細胞におけるUSP7とIRSの相互作用の解析、を行った。その結果、ヒト前立腺がん由来細胞DU145において、rapamycinの前処理によりAktのリン酸化が亢進した。しかし、USP7阻害剤P5091の処理によりIRSの量が減少した細胞においても、rapamycin処理によるAktのリン酸化の亢進が見られたことから、この細胞においてはIRSの量制御を介さずにIGFシグナルが過増強されると結論した。一方IGF刺激によりUSP7とIRSの相互作用が変動しない細胞としてヒト前立腺がん由来細胞PC3を見出した。この細胞では、IGF刺激によるUSP7のIRSからの解離やIRSの分解が観察されず、また、IRSの発現抑制によりDNA合成が顕著に抑制された。これらのことから、PC3細胞においてIGFシグナルのフィードバック機構が破綻→USP7とIRSの相互作用が維持→IRSの脱ユビキチン化が促進→IRSの量が増加→IGFシグナルが過増強される→がんの形質獲得、維持という機構が働いていると考えられた。この機構の発見は、癌の形質獲得・維持に重要な役割を担うIGF活性の修飾機構の一端を明らかにできたという点で基礎研究としての意義が極めて高く、また、IGFシグナル・活性が過増強されているがんの治療につながる重要な研究成果だと考えられる。
(抄録なし)
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Structure
巻: (掲載確定) 号: 5 ページ: 731-743
10.1016/j.str.2014.02.014