本研究では赤外線分光観測を用いて炭素質ダストの性質変化を探った.特に観測機器の限界のためにこれまで十分な感度での観測が行われていなかった 5μm よりも短い波長に注目して研究を進めた.(1)赤外線天文衛星「あかり」を用いて銀河系内の惑星状星雲約 70 天体の 2-5 μm 近赤外線スペクトルを解析し,分光カタログを作成した.分光カタログの精度について評価した.本研究の成果は星間 PAH (polycyclic aromatic hydrocarbon) の変性の研究において有用であることが示された.(2)すばる望遠鏡 COMICS および Gemini North 望遠鏡 NIRI を用いて,コンパクト HII 領域 M1-78 における PAH 放射強度の空間変化を調べた.NIRI による観測では HII 領域を取り囲むようにして非常に広い範囲で水素分子からの輝線が放射されていることが確認された.HII 領域の内部では 3.3μm/11.2μm の PAH 放射強度比が著しく低下していることが分かった.この強度比の変化がサイズの小さい PAH が輻射によって蒸発したために引き起こされた可能性について指摘した.(3)地上望遠鏡に依る中間赤外線観測では回折限界に迫る高い空間分解能を実現できるため,ダストの変性過程を探るうえで有用である.多くの地上中間赤外線装置では副鏡 tip-tilt による高速 (~1Hz) ビームスイッチングが用いられているが,30m 級の次世代大型望遠鏡では巨大な副鏡を高速で動かすことは不可能である.私は大気放射の時間相関を利用することでビームスイッチングの周波数を低下させる手法を開発しすばる望遠鏡 COMICS のアーカイブデータで検証した.開発した手法を用いることでビームスイッチング周波数を 1/10 以下に下げても観測可能であることがわかった.
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