研究実績の概要 |
本研究では第1に癌抑制遺伝子として知られるp53の慢性腎臓病進行における役割を進行性の遺伝性腎疾患であるアルポート症候群モデルマウスを用いて検討した。全身性p53欠損マウスおよび腎糸球体上皮細胞(podocyte)特異的p53欠損マウスとの交配の結果, アルポート症候群モデルマウスの腎病態が増悪することが示された。組織学的な解析の結果, p53はpodocyteの病態進行に伴う足場構造の破綻, 糸球体半月体形成を抑制する機能を有することが明らかになった。また, 腎糸球体を用いたmicroarray解析, podocyte細胞を用いたin vitroでの検討の結果, p53はpodocyteの増殖・遊走を抑制すること, podocyte機能遺伝子群(Nephrin, Podocin)を直接的或は間接的に正に制御することが示され, アルポート症候群治療標的となり得ることが示された。第2に慢性腎疾患治療法開発を企図し, 細胞死を誘導しない新たなp53活性化手法の開発を目的とし検討を行った。その結果, これまでp53活性化が報告されていなかった特定波長のパルス電流(MES)がヒト大腸がん細胞株であるHCT116においてp38MAPKs経路を介し, 一過性にp53のSer15をリン酸化することを明らかにした。 更にこのMES刺激は細胞非傷害性に細胞周期のG2期での停止や抗炎症作用を誘導できることが示され, 慢性疾患におけるp53活性化という新たな治療パラダイムを提起するものとなった。上記の2つの研究課題はそれぞれ国内外の学会, シンポジウム等で発表され, また, 学術雑誌に掲載された。
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