本研究課題は、戦間期ヨーロッパにおける国際関係を平和主義の理念とその運用状況の分析を通じて多角的に議論することを目的としている。歴史学を主な手法とした地域研究の観点から進め、フランス人権連盟の活動、フランス国内のハンガリー人権連盟の活動、それを受けたハンガリー国内の改革派知識人の活動を、他の国際的な平和主義運動やコミンテルンとの関係も踏まえながら比較し、戦間期のヨーロッパにおいて平和主義が各政治集団の意向で政治利用される状況を明らかにすることを目指す。 採用第2年度目の本年度は、フランス国内でのハンガリー人権連盟の活動の概要を把握することを目指した。昨年度と同様に、ハンガリー人権連盟の成立過程において重要な役割を果たしたハンガリー系亡命共和主義者の活動を、二つの観点(1918年10月の革命を主導した政治家集団と人権連盟との関係/ハンガリー国内での活動に限界を感じた共和主義者と人権連盟ならびにフランス国内のハンガリー系亡命者)から分析した。その際には、ハンガリー人権連盟において中心的な存在だったボータ・エルネーの回顧録を重要な参考文献とした。 その分析を通じて、1925年後半以降のハンガリー人権連盟指導部では旧社会民主党中央派が主導するようになったことが明らかとなった。また、ハンガリーをめぐる当時の国際関係だけでなく、社会主義政党を取り巻く国際情勢も、当初予想していた以上に彼らの活動に影響していたことも判明した。彼ら亡命共和主義者の活動に対抗して、ハンガリー政府側もフランスにいる非左派系のハンガリー人の組織化を試みた。この点については今後も調査を進める計画である。 就職のために本年度末を以て日本学術振興会特別研究員を辞退することとなったが、本研究課題については今後も継続して取り組む所存である。
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