研究実績の概要 |
本研究は、繊毛虫ブレファリズマの交配フェロモンの種分化における役割について明らかにすることを目的としている。有性生殖を行うブレファリズマにとって、種分化が起こる過程で生殖隔離が成立することは重要である。交配フェロモンであるgamone 1が異種に対して作用しないことにより、異種間接合が妨げられ、生殖隔離が成立していることが示唆された。 今回、糖タンパク質であるgamone 1の遺伝子の単離を行い、gamone 1の特異性がどのような分子構造の違いにより生じているかを推定した。その結果、gamone 1における変異は種を境に生じていることが分かり、また変異が集中している領域が2ヵ所みられた。一方、糖鎖の推定結合部位を調べたところ、種間で大きな違いはみられなかった。したがって、gamone 1の特異性は糖鎖ではなく、アミノ酸配列の変異により生じた結果であることが考えられた。さらに、gamone 1は、有性生殖とは無関係であるhistone H4, 18SrRNA, α-tubulinの各遺伝子と比べて、異種間における変異が大きいことが分かった。よって、上述した3つの遺伝子に比べて進化速度が速いことが推定され、gamone 1には特異的な作用を持つような適応的な変異が生じた可能性が考えられた。 一般に、性決定遺伝子や配偶子間の接着分子の遺伝子など有性生殖に関わる遺伝子は、有性生殖とは無関係の遺伝子と比べて進化速度が速く、適応的な変異が生じたことにより種分化に寄与した可能性が高いとされている。本研究により、繊毛虫ブレファリズマにおいても、そのような傾向がみられ、gamone 1が種分化に関わっている可能性が高いことを示せた。
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