研究実績の概要 |
動物の体内には傷害を受けたり成長の過程で不要になった細胞が死に, 取り除かれる機構が備わっている. この細胞死機構(アポトーシスと呼ばれる)の不調は癌や神経変性疾患, 自己免疫疾患などの重篤な疾病を引き起こすため, その機構の解明は基礎研究のみならず臨床的観点からも極めて重要である. これまでに細胞内小器官ミトコンドリア外膜上でBakタンパク質が凝集体を形成することがアポトーシスの引き金となることが知られていたが, 凝集体のサイズや分子密度などの定量的情報は不明であった. そこで本研究では, Bak凝集体の定量解析を可能にする新規分析法を開発した. 我々は, 蛍光タンパク質mEos3で標識したBak(mEos3-Bak)を発現するマウス胚性線維芽細胞を開発した. この細胞株は内在性Bakを欠損しているため, 細胞内に発現している全Bak分子を蛍光検出可能である. 蛍光免疫染色法により, Bakの分子内構造変化および凝集体形成がmEos3標識によって阻害されないことを確認した. この結果は, 開発した細胞株が生理的に意義のある凝集体を観察可能であることを示している. 次に, 開発した細胞株を用いて凝集体の可視化検出を行った. この可視化検出では, 一分子イメージングに基づく超解像顕微鏡法が使われた. その結果, 空間分解能20 nmでミトコンドリア上のBak凝集体を観察することに成功した. 観察データを詳細に解析した結果, 凝集体のほとんどが光学限界以下のサイズであることが明らかとなった. さらに, 凝集体間でサイズ(半径および分子数)には大きなばらつきがある一方, 凝集体内のBak分子密度は一定であることがわかった. Bak変異体の凝集体を用いた解析でも同様の結果が得られた.
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