研究概要 |
CNR遺伝子のゲノム組み換え体の単離を目的として,CNR遺伝子の定常領域をプローブとして用いマウス脳由来ゲノムライブラリーのスクリーニングを行った。その結果,IgGやTCRと類似したCNR組み換え体は得られなかったが,cDNAと同じ配列のイントロンを欠いたCNR遺伝子(v6)が単離された。このイントロンレスCNR遺伝子は28SrRNA遺伝子を分断するように挿入しており,境界領域には5塩基のダイレクトリピートが存在し,10個の点突然変異が見られた。これらの特徴から,このイントロンレスCNR遺伝子はCNR mRNAのレトロトランスポジションにより生じたと考えられる。v6以外のCNR遺伝子についても同様にレトロ転位したイントロンレス遺伝子が存在するかどうかを検討するために,ゲノムDNAを鋳型として用いてPCRによる検出を試みた。各可変領域エキソンにおける共通配列と定常領域エキソンに設計したプライマー(ゲノム上のプライマー間の距離は〜200kb)を用い,マウスのゲノムDNAを鋳型としてPCRを行ったところ,脳組織ゲノムDNAを用いた場合のみ,v1からv12の全てのCNR遺伝子のイントロンレスパラログをPCR増幅体として得ることができた。一方,精巣などの脳組織以外のゲノムDNAを用いた場合はPCR増幅体は得られなかった。 脳特異的に発現する遺伝子が一世代の間にレトロ転位を受けるという例は,始めての知見である。 また,興味深いことに,このイントロンレスCNR遺伝子の検出には個体差が見られ,同系統(C57BL/6)の30個体のマウスのうち9個体(30%)でイントロンレスCNR遺伝子を脳組織特異的に検出できたが,残りの21個体では全く検出できなかった。この同系統マウスにおける個体差は,レトロトランスポジションの起こる頻度が低く,イントロンレスCNR遺伝子の存在がある個体の一部の神経細胞に限られることを反映していると考えられる。
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