研究概要 |
MHC領域は進化学的に保存されている遺伝子が数多く存在することや、あらゆる生物種の塩基配列情報が豊富であることから、遺伝子の動態を追究するには最適な領域といえる。これまでにヒトのMHC領域2.2Mbの塩基配列を決定したが、次の段階として、他種のMHC領域の塩基配列を決定し、比較解析することによりゲノム進化、形成の分子機構を解明し、MHC領域が高等な免疫系を獲得してきた経緯を明らかにすることを目的とした。 これまでに合計5650kb(ナメクジウオ:511kb、サメ:271kb、ウズラ:243kb、ラット:642kb、ブタ:433kb、アカゲザル:1800kb、チンパンジー:1750kb)の塩基配列を決定した。これらの塩基配列をもとに比較ゲノム解析をおこなった結果、生物種間における基本的な遺伝子構造は大まかには保存されているが、それぞれの生活環境に適応するためのMHCや。MHC関連遺伝子のbirth and deathにより形成されてきたことが示唆された。また、チンパンジーとヒトとの連続決定配列を用いた多様性は、平均1.4%であり、既報の平均値(1.23%)よりも1.7%高かったこと、さらにはヒトとナメクジウオのゲノム塩基配列の比較から、ヒトの第1,6,9,19番染色体の4つのMHCパラロガス領域のうち、第9番染色体は他の染色体よりもよく遺伝子が保存されていること、各遺伝子族の進化速度は第9番染色体に存在する遺伝子が最も遅いが、その他の染色体に存在する遺伝子はまちまちであったことから、第9番染色体が最も重複前のゲノム構造を保持していることが示唆された。したがって、これらの違いこそが重複後に新たな機能を有する遺伝子を誕生させ、その機能を発達させることにより高度な機能を有する様々な脊推動物を誕生させてきたと考えられた。
|