研究概要 |
(1)テトラサイクリンによるDnmt3a, Dnmt3bの発現誘導系をde novoメチル化酵素欠損ES細胞へ導入することはできた.しかし,これらの酵素の発現を誘導しても,Xistプロモーターにおけるメチル化の回復は認められなかった.また,分化誘導後Xistを異所的に発現している状況でDnmt3a, Dnmt3bを誘導しても,X染色体不活性化よると思われる細胞死は引き起こされなかった.したがって,Dnmt3a, Dnmt3bはXistの発現制御のみならず,X染色体全域に結合した後のプロセスにも必要であるという当初の仮説は適切ではなかったと思われる.むしろ,X染色体不活性化が細胞分化と密接に関わっていることを考えると,de novoメチル化酵素欠損ES細胞では,異所的なXistの発現は不活性化を誘導するのに重要な分化段階を経過してから起こったため,染色体の不活性化には至らなかったのではないかと考えている. (2)Dnmt3a/Dnmt3b二重欠損マウス胚におけるX染色体不活性化を解析した.雌の正常マウス胚では二者択一的にメチル化されているXistプロモーター領域が,Dnmt3a/Dnmt3b二重欠損マウス胚では極端に低メチル化状態になっているにもかかわらず,大多数の細胞においてXistのディファレンシャルな発現は影響を受けていなかった.また,不活性化も細胞分化にともない正常に進行すると思われた.これらは,Dnmt3aおよびDnmt3bがX染色体不活性化の開始と不活性状態の染色体全体への伝播に必須ではないことを示している.また,不活性化の開始にはXistのmonoallelicな発現亢進が重要であるが,今回の解析からDnmt3a/Dnmt3bによるXistプロモーターの二者択一的なde novoメチル化がそれを担う最初のイベントではないことも強く示唆された.
|