研究概要 |
ゲノムは放射線や化学物質による攻撃を受け続けている。これらの攻撃の結果、ゲノム配列に変化が生じるが、生物にはこの障害を修復する機構がある。また、DNA複製の際にも複製ミスは起こっているが、そのミスもほとんどの場合は修正されている。DNAの塩基配列をある程度保存することができなければ、ゲノムにコードされている情報が変化してしまい、その生物は死にいたる。しかし、完全に修復してしまっては、生物は進化しない。DNA損傷の修復は、DNA修復酵素と呼ばれる一群のタンパク質によって行われていることが解明されている。放射線照射による細胞のガン化は、DNA修復酵素による修復が正常に機能しない、または間に合わないことが原因の一端となっている。このように基本的な酵素であるDNA修復用タンパク質は、DNAポリメラーゼやRNAポリメラーゼのように、すべての生物に共通に存在するのだろうか。あるいは、生物ごとに異なる種類のDNA修復酵素が存在するのであろうか。生物は進化の過程で何種類の修復酵素を生み出してきたのであろうか。以上のことを明らかにすることを目的に、研究を開始した結果以下の2点を達成した。 1)DNA修復酵素および修復に関連するタンパク質のアミノ酸配列、ゲノム上の位置、及び相互作用の情報を収集することができ、それらを統合したデータベースを構築することができた。平成15年3月現在、試験的な公開を開始し、詳細部分の調整を行っている。 2)データベース構築にあたり、全ゲノムが判明している生物種において、各種の修復関連タンパク質の存在の有無を調べたところ、多くの修復関連タンパク質が、保存されていないことが判明した。たとえば、ミスマッチ修復システムであるMutS, MutL, MutMは3つのタンパク質がそろって、初めて機能するはずであるが、生物によっては、3つが完全にそろっていない、または1つが重複している場合があることがわかった。
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