研究概要 |
我々は、アルツハイマー病ベーターセクレターゼ(BACE1)がゴルジ装置に存在するalpha2,6シアル酸転移酵素(2,6ST)を基質として切断することを見い出した(Proc Natl Acad Sci, USA 2001:98,13554-9)。本研究ではこの切断の詳細な機構を明らかにした。また、BACE1の新たな基質を検索し、複数の糖転移酵素がBACE1による切断を受けることを明らかにした。 (1)BACE1による2,6STの切断位置の確定 BACE1とalpha2,6シアル酸転移酵素を細胞内で共発現すると、2,6STが切断を受け細胞外に分泌されてくる。このとき2,6STのアミノ末端はGlu-41から始まっていたので、BACE1は2,6STのLys-40(P1)とGlu-41(P1')の間を切断すると考えた。しかし、この切断は、報告れているBACE1の切断特異性と一致していなかった。そこで、in vitroで切断位置を再検討したところ、Leu-37とGln-38の間で切断が起こることが見いだされた。細胞内では生じたGln-38断端が、アミノペプチダーゼによりトリミングを受けて3つのアミノ酸が除去されGlu-41が露出してから細胞外に分泌されることが示された。重要な点は、このアミノペプチダーゼはBACE1の切断の後にしか作用しないことである。即ち、2,6STの切断と分泌の速度を決定しているのはBACE1であることが確認された。 (2)BACE1の新しい基質の網羅的検索 2,6ST以外の糖転移酵素がBACE1の基質になるか否かを検討した。新たに2つの糖転移酵素がBACE1の切断を受けることが明らかとなった。すなわち、BACE1は特定の糖転移酵素を選択的に切断していることが示された。今後この切断のアルツハイマー病態における意義を検討する予定である。
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