研究概要 |
人間は不確実に変化する環境の中であっても情報を有効に利用し適切に行動することができる.不確実に変化する環境での思考を定式化したものにShannonの情報理論がある.この理論は,環境の変化が確率過程として記述できるときに人間が情報と考えるものを定式化したものである.本研究は情報理論によって記述された人間の情報概念が脳内でどのような神経機構によって計算されているのかを明らかにすることを目的とする. 14年度は確率的に変化する視覚刺激を提示し予測による反応時間の変化について調べた.サッカード眼球運動課題の実験装置の調整を完了し,予備実験としてこの課題をサルに訓練して,確率的推論行動について以下のような基礎データを得た.すなわち,注視点の左右どちらかに提示される目標点へのサッカード眼球運動は提示確率の高い側への反応時間が短いという予測効果を示した.また,この実験データを線形神経回路モデルを用いて解析し,次の3つの事項を調べた.第1に,この予測効果が2つの平行する神経路,すなわち予測準備経路と運動起動経路とから成ること,第2に,これらの経路はそれぞれ眼球から前頭連合野を経て上丘に到る経路と眼球から直接上丘に到る経路であること,第3に,予測準備経路の前頭連合野までのどこかに神経活動の上昇速度が目標の提示確率に比例する細胞の存在が予測されることである. 今後は,まず予測準備経路の前頭連合野までで神経活動の上昇速度が目標の提示確率に比例する細胞のある領野を神経活動計測によって同定する.さらに,上記のサッカード眼球運動課題を拡張して目標点の位置が情報エントロピーを用いて推定できる確率的推論課題をサルに訓練する.この課題での情報エントロピーを用いた予測が前頭前野外側部-頭頂野-前頭眼窩野で行われているとする仮説を検証するため,これらの領野から神経活動を計測する.
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