研究概要 |
(目的)アルツハイマー病は、不溶性アミロイドの蓄積から始まり、神経細胞の機能不全や変性といった複雑な経路を経て痴呆発症へいたる疾患である。脳内におけるβアミロイドの蓄積は、アルツハイマー病の原因の一つであり、βアミロイドの蓄積を抑制することができれば、アルツハイマー病の治療薬開発につながると期待されている。近年、トランスシレチンはアミロイドβペプチドに結合しβアミロイドの蓄積を妨げているという報告がなされた。本研究では、NMRを用いてトランスシレチンのどのアミノ酸がアミロイドβペプチドに結合しているのか明らかとし、βアミロイド形成阻害剤の開発を目指す。 (結果)NMRに必須の安定同位体ラベルを円滑に進めるためには、トランスシレチンの大腸菌による大量発現系が必要である。私は、以前に報告されたトランスシレチンの大量発現系を改良し、LB培地1リットルあたり200mgのタンパク質を得ることに成功した。発現系構築に関する研究結果をProtien Purification and Expressionに投稿した。さらに、42残基からなるアミロイドβペプチドとトランスシレチンが、どのように結合しているのかについてNMRを用いて調べた。その結果、42残基からなるアミロイドβペプチド(1-42)は、トランスシレチンのVal20,Gly22,Ala108,Leu110,Ala120に結合していることを明らかとした。これらのアミノ酸残基の立体構造上の位置から、トランスシレチンのdimer-dimer interaction siteにアミロイドβペプチドが結合していると予想された。現在、様々な長さのアミロイドβペプチドとトランスシレチンの相互作用についてNMRを用いて解析中である。
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