成熟動物の小脳プルキンエ細胞は一本の登上線維によってのみ支配を受けるが、発達初期には一時的に複数の登上線維による支配を受けている。シナプス形成直後の多重支配している登上線維は、それぞれ同じような強さのシナプスを形成しているが、生後一週目までに一つのプルキンエ細胞上で、一本の最大振幅をもつ興奮性シナプス後電流(EPSC)を発生する登上線維入力(CF-multi-S)と、それ以外の弱い登上線維入力(CF-multi-W)が混在して見られるようになる。これまでの我々の研究から、CF-multi-Wは、CF-multi-Sに比べて、シナプス伝達の際にシナプス間隙で発生するグルタミン酸濃度上昇が小さいことが明らかになっている。 今回シナプス間隙のグルタミン酸濃度上昇の大きさと、入力線維間のばらつきの形成との関連について解析した。その結果、CF-multi-WのEPSCの振幅が、もっとも優位なCF-multi-Sの振幅の20%以下になると、シナプス間隙の伝達物質濃度が低くなり始めることが明らかになった。さらに、入力線維間の強さのばらつきの形成と、登上線維除去との関連について解析した。2日おきに全細胞中、CF-multi-Wの応答振幅が、CF-multi-Sの20%以下でなおかつ2もしくは3本の登上線維により投射されているプルキンエ細胞の割合を求めると、その値は、その後2日間の間に増加する一本支配のプルキンエ細胞の割合とほぼ平行であった。これらの結果は、CF-multi-Wの応答振幅が、CF-multi-Sの20%以下になると、シナプス小胞放出過程に変化が起こり始め、シナプスの除去にいたることを示唆している。
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