研究概要 |
大脳新皮質錐体細胞は新皮質脳室帯で産生され、放射方向への細胞移動を経て皮質層構造を形成するが、マウスのGABA作動性非錐体細胞の大部分は大脳基底核原基で産生され、接線方向への細胞移動によって新皮質の層構造に加わることが知られる。我々は新皮質GABA作動性神経細胞前躯細胞の起源および増殖を発生過程にあるマウスを用いて調べた。GAD67-GFPノックインマウスの新皮質内で接線方向に移動するGFP陽性細胞は、胎生15日(E15)以前ではBrdU30分パルス標識を行っても陰性であったが、E16以降GFP陽性細胞、MAP2陽性細胞のうちの一部がBrdU陽性となった。また、E18ノックインマウスの新皮質および海馬からGFP陽性細胞をFACS法で集めて2日間培養すると、GFP陽性細胞の一部はBrdUを取り込んだ。このときの培養条件は、神経幹細胞を培養増殖させるものでは増殖せず、栄養要求性が高いことから神経幹細胞から区別された。GFP陽性細胞の含有物を免疫組織化学により調べると、Emx1 negative, GAD positive, nestin positiveとなっていた。分離されたGABA作動性前駆細胞は、大脳皮質外由来で、神経細胞マーカーと神経幹細胞マーカーを併せ持つ、神経前駆細胞に分類されると思われた。SV40複製起点およびCAG promoterにより発現調節を受ける2個のloxPで挟まれたCFPをもつアデノウイルスを、Emx1-Creマウス胎児の側脳室へ注入し出産成長させると、終脳腹側脳室帯由来の細胞を特異的にCFP標識することができる。生直後にCFP標識細胞を観察すると、皮質板内に存在するものでもPCNA陽性の細胞が観察された。生後3週齢マウスの大脳新皮質でCFP標識された細胞を観察すると、大脳皮質で標識されていた全ての細胞は、GABA作動性神経細胞であった。標識されたGABA作動性神経細胞は大脳皮質内に散在するが、しばしば2細胞のペアを形成しているところが観察された。このことは新皮質GABA作動性ニューロンの前駆細胞は大脳基底核原基からの細胞移動によって新皮質実質部へ到達してからもなおGABA作動性神経細胞を産生することを示している。マウス大脳基底核原基は、GABA作動性神経細胞前駆細胞を大脳新皮質に供給し、前駆細胞が大脳皮質内で必要に応じて増殖することにより、結果として大脳新皮質GABA神経細胞の大半を供給する。同様の大脳基底核原基由来GABA作動性神経細胞前駆細胞は広く動物種を問わず存在すると考えられる。人間では大脳皮質のGABA作動性神経細胞の産生に、同前駆細胞の大脳皮質内での増殖に大きく依存していると考えられる。
|