研究概要 |
アルツハイマー病発症のキーステップは,本来可溶性のアミロイドβ蛋白(Aβ)が神経毒性を持つ凝集体に変化することであると考えられているが,この過程の詳細なメカニズムは不明である.Aβは,ガングリオシド/スフィンゴミエリン/コレステロールからなるラフト様膜中でコレステロール依存的に形成されるガングリオシドクラスターに特異的に結合することをこれまで明らかにしてきた(J.Biol.Chem. 276,24985(2001)).今回,ラフト様脂質組成のリポソームを用いて以下の知見を得た.1)膜結合に伴い,Aβのコンフォメーションはランダム-->α-ヘリックス-->β-シートと変化し,β-シート型が形成されるとこれが核となってAβの凝集が進行し,アミロイド線維が形成される.2)この凝集は,膜結合直後から可逆的に起こる.3)神経細胞に存在する主要ガングリオシド(GM,GD1a,GD1b, GT1b)の中では,GM1が最も線維形成能が高い.さらに,蛍光励起エネルギー移動法を利用して,いったんラフト様膜に結合すると,Aβは「膜活性型」となり,可溶性Aβが結合できないホスファチジルコリンの膜にも結合できるようになることを発見した.これはAβの二次構造獲得が本来高い活性化エネルギーにより速度論的に抑制されているが,ガングリオシドクラスターがこの活性化エネルギーを低下させ,コンフォメーション触媒(シャペロン)として働くことを示唆している.
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