研究概要 |
近年のアルツハイマー病研究の進展により,α-,β-およびγ-セクレターゼがアルツハイマー病の発症に重要な役割を果たすことがわかってきた.これらの酵素はお互いに相関しながらアミロイド前駆体蛋白質(APP)に働き,老人斑の原因となるアミロイドβ-ペプチド(Aβ)の蓄積を起こす.そこで,これらの酵素活性を制御することにより,アルツハイマー病の予防あるいは治療が可能であると考えた. 我々は,アスパラギン酸プロテアーゼの基質遷移状態概念に基づいて,高血圧治療剤としてのレニン阻害剤,エイズ治療薬としてのHIVプロテアーゼ阻害剤,マラリア治療薬としてのプラスメプシン阻害剤のデザインと合成に成功した. アルツハイマー病発症に重要な役割を果たすα-,β-およびトセクレターゼもプロテアーゼであるので,同様の方法論で制御分子のデザインを効率良く行えると予想した.また,セクレターゼの場合これら3種類の酵素がお互いに相関しながら,阻害と活性化が進行して複雑にアミロイド産生していると考えられたので,アミロイド産生を抑制のために,酵素の分子認識に基づいて阻害剤のみならず活性化物質も探索した. その結果,オクタペプチドKMI-008が,高いβ-セクレターゼ阻害活性を示した.アミロイド前駆体蛋白質とBACE1をトランスフェクションした培養細胞にKMI-008を投与すると、βセクレターゼの分解物の分泌量が低減することを確認した。 アルツハイマー病治療薬として現在,アセチルコリンエステラーゼ阻害剤が認可されているが,酵素の分子認識に基づいて制御物質をデザインする方法論は,耐性が生じた場合の克服法にも応用できると期待できる.
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