今年度はインターネットによる投票行動への影響を分析することを目的として、ネットワーク環境を活用した模擬投票実験を行った。2002年8月に示されたIT時代の選挙運動に関する研究会の報告書では、電子メールは認められないが、Webサイトによる選挙運動は認めるべきであるという結論が示され、ようやく我が国においてもインターネットを利用した選挙運動が展開される段階に来ている。いうまでもなく、インターネットは従来の選挙運動で用いられたメディアと比較して情報量が豊富であり、投票行動に与える質的な影響は大きい。また、メールによる誘導を前提としない環境ではインターネットを利用して投票に関わる情報を獲得する有権者は極めて政治関心が高くまた政治知識量も豊かであると考えられるため、インターネットによる投票行動への影響として、争点投票が行われることが指摘できる。そこで、模擬実験においては有権者の争点認知と侯補者の認知に着目した認知モデルを構築し、それに影響を与えるインターネット上の情報源として候補者の公約情報、掲示板によるディスカッション、および有権者の意思決定支援システムを設定した。さらに、争点投票への影響については各争点の特性が重要であるため、特性に留意しつつ2002年10月の衆参補選における実際の16争点から実験で用いる争点として5争点を抽出し、実験環境における争点として設定した。合計67名の被験者の協力に基づき、9日間にわたる実験を行った結果、有権者の理解度の低い争点については議論による争点の顕出性に影響を与えうること、また意思決定支援システムを利用した場合には有権者の候補者認知は有権者の認知しうる争点数は拡大する傾向にあり、争点投票支援が有効であることが判明した。
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