研究概要 |
本研究は,原因不明の難治性慢性疾患であるヒト炎症性腸疾患(IBD)の新規動物モデルを作成して、管腔内微生物性抗原に対する宿主T細胞の反応が病態形成に直接的に関与していることを証明するものである。これまで、この疾患の発症機序に関して抗原特異的な病態解析は方法的な困難があり不可能であった。我々は、様々な遺伝学的手法と、解析可能な実験腸炎モデルを作成することにより、宿主の腸管腔内微生物性抗原に対する免疫反応と招来される腸炎の組織学的性状について比較検討した。我々は、BALB/c,SCIDマウスに卵白アルブミンに対して特異的なT細胞抗原受容体を強制発現するマウス(OVA-TCR-Tg)のCD4細胞を移入し、抗原を発現す大腸菌(ECOVA)を感染させることにより、抗原特異的にヒトの潰瘍性大腸炎類似の腸炎を誘導する事に成功した(Int mmunol,2001)。このモデルを用いて、IBDが成立するための条件と発症を抑制する細胞群を明らかにしている。このモデルに認められる腸炎は大腸粘膜内リンパ濾胞の腫大を特徴とし、陰窩膿瘍形成や杯細胞の消失、腺管構造の破壊を特徴とする。OVA特異的なTh2細胞単独でも腸炎は発症し、その臨床経過、組織像はTh1細胞を移入して発症する腸炎とは異なっていた。さらに、本モデルは腸炎発症に至る宿主の免疫反応、とくに抗原特異的CD4T細胞の局在を同定することが可能である。腸炎惹起性T細胞はリンパ濾胞でクローンの拡大が起こり、Th1タイプとTh2タイプの腸炎惹起性T細胞でその局在が異なるというこれまでのモデルでは得られなかった新たな知見が明らかになった(Gastroenterology 2002)。このモデルから得られる知見は、腸管粘膜部での管腔内微生物性抗原に対する免疫寛容の成立・維持機構と、寛容の破綻に基礎を置く病理変化の分子・細胞機序を明らかにするとともに、ヒトの難治性腸炎の発病機序、抗原特異的治療法・炎症惹起性T細胞を標的とする治療法の開発のうえで重要な知見を与えるものと考える。
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