研究概要 |
本年度の研究においては、特に、NOによる生体内での核酸ニトロ化反応に焦点をあて、ウイルス感染病態の解析を行った。具体的には、核酸塩基グアニンのパーオキシナイトライトなどの活性酸化窒素種によるニトロ化産物である8-ニトログアノシンの抗体を作製し、インフルエンザウイルス感染モデルにおける8-ニトログアノシン生成を検討した(Akaike et al.,PNAS,100:685-690,2003)。さらに、8-ニトログアノシンの生体内生成を介する毒性発現のメカニズムをその酸素ラジカル産生能に注目して解析を行った。研究成果は以下の通りである。 (1)8-ニトログアノシンの大量有概合成法を確立し、抗体作成および8-ニトログアノシンの感染病態における生体内生成とその生物効果の解析に供した。常法により、8-ニトログアノシン特異的ウサギポリクローナルおよびマウスモノクローナル抗体を作成した。 (2)本抗体を用いて、マウスインフルエンザウイルス肺炎モデルにおける8-ニトログアノシンの生体内生成を免疫組織化学的に解析した。その結果、インフルエンザウイルス感染マウスの肺組織において、誘導型NO合成酵素(iNOS)の発現に伴って、気管支・細気管支上皮細胞と一部の滲出マクロファージに濃染像が認められた。一方、正常マウスおよびiNOS欠損マウス肺では、染色像は確認出来なかった。また、抗8-ニトログアノシンのモノクローナル抗体を用いた免疫細胞化学染色により、サイトカイン刺激によりiNOSを発現したRAW 264細胞(マウスマクロファージ様細胞株)や、iNOS遺伝子を強制発現させたCOS-1細胞においても、著明な8-ニトログアノシン生成が確認された。これらの知見より、ウイルス感染病態における8-ニトログアノシンの生体内生成が明らかになった。 (3)NO生成を介して産生される8-ニトログアノシンは、強力な化学的反応性(レドックス活性)を有していることも分かってきた。すなわち、8-ニトログアノシンは、生体内に豊富に存在するNADPH依存性還元酵素、例えば、P450 reductaseやiNOSを含めたすべてのNOSアイソフォーム(血管型eNOS,神経型nNOS)により-電子還元されることにより活性化され、8-ニトログアノシンラジカルに変換し、さらに、溶存酸素を-電子還元し著明なスーパーオキサイド産生をもたらすことが明らかになった。このことは、8-ニトログアノシンが感染病態における酸化ストレスのメディエーターであることを示唆している。
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