研究概要 |
ヘリコバクタ・ピロリ(HP)が胃癌の発症に重要な役割をはたすことが明らかとなりつつあるが、その詳細な機序は未だに不明である。そこで本研究ではHP感染による胃炎、胃癌発症におけるIL-7,IL-7受容体の役割を明らかにする目的で、Balb/c,B6マウスに胸腺摘除をおこない、これにHPを感染させて種々の実験をおこなった。その結果(1)胸腺摘除マウス(nTx)にHPを感染させると著明な胃炎が生じ、特にBab/cマウスでは6ヶ月目に強度な萎縮性胃炎、さらに胃腺腫が生じた。(2)その際胃粘膜ではγδT細胞の浸潤が特徴的であった。(3)一方、δ受容体欠損マウスでは胃炎は極めて軽微であった。(4)つぎにnTx HP感染マウスに抗IL-7受容体抗体を継続投与すると、胃炎のみならず、胃腺腫の発症も抑制された。さらにγδT細胞の浸潤も抑制された。(5)これら感染、非感染マウス間のmicroarrayでは、IL-7,IL-7受容体に加えて、regIαとregIIIが最も高発現していた。(6)そこでHP感染マウスのregの発現をみたところ、感染胃粘膜においてreg遺伝子、REG蛋白ともに著明に上昇していた。(7)つぎにヒト胃癌細胞株MKN45,KATOIIIにHPをIn vitroで感染させたところ、IL-7ならびにIL-7受容体の発現が亢進した。さらにIL-7はこれらの細胞の増殖を促進させると同時に、STAT6、MAPKの活性化、c-fosの発現を促進した。以上の成績から、HP感染による胃炎の発症におけるIL-7シグナルの重要性が確認された。すなわちHP感染は胃粘膜のIL-7の発現を増強させることによって、γδT細胞の浸潤を促進させ、胃炎を増強するとともに、胃粘膜の増殖を促進させる。HPはさらにregの発現を増強させることによっても胃粘膜の増殖を促進させているものと考えられた。
|