研究概要 |
細菌やウィルスの感染に伴う炎症は発癌リスク因子であることから,炎症と発癌の関係を過剰産生されたNOとの関連から検討する必要がある。NOとグアニンの反応で生じるオキザニンは,生体ポリアミンやDNA結合タンパクとクロスリンクを形成する。 本研究では,細胞内におけるオキザニンのクロスリンク標的分子を探索するとともに,クロスリンク生成物のDNA複製に対する影響と修復機構を検討した。その結果,HeLa細胞内の主要クロスリンク標的分子として,41kDaおよび69kDaのタンパクの存在が確認された。前者の候補としては8-oxoguanine-DNA glycosylase (hOGG1)が考えられたが,hOGG1抗体を用いたクロスリンク阻害実験から,同タンパクはhOGG1ではないことが明らかとなった。DNA複製については,オキザニン-スペルミンクロスリンク生成物の影響を調べた。同クロスリンク損傷は強いDNA複製阻害効果を示したが,損傷乗り越え合成(translesion synthesis)も起こることが明らかとなった。オキザニン-スペルミンクロスリンク生成物では,塩基対形成に必要な水素結合部位が修飾を受けていることから,損傷乗り越え合成では,本来取り込まれるべきdCMP以外のヌクレオチドの取込が予想される。クロスリンク生成物の修復については,UvrABC酵素のオキザニン-スペルミンクロスリンク生成物に対する反応を検討した。UvrABCは損傷特異的なDNA切断活性を示したことから,クロスリンク生成物修復に対するヌクレオチド除去修復の関与が明らかとなった。真核生物においても同様な結果が予想されることから,ヒトのヌクレオチド除去修復再構成系を用いて同修復機構の関与を確認するとともに修復効率の定量的な解析を行う必要がある。
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