研究概要 |
T細胞にTIAP/Survivinを強発現するためにLck proximal promoterを用いてトランスジェニックマウスを作製した(Lck-TIAP Tg)。T細胞の分化、各種アポトーシスの刺激に対する反応に差がないことはすでに明らかにした。胸腺T細胞をPMA+Ionomycinで刺激し、3 H-Thymidinの取込みを見たところTgがコントロールの約5倍に亢進していた。また胸腺T細胞を抗CD4,CD8抗体を用いて染色し各分画にわけて増殖反応をみたどころいずれの分画においてもTgが皮応性が亢進していた(Hikitaet al.2002)。またこのTgは2年間の経過視察において腫瘍の発生は認められなかった。さらにTgとコントロールマウスに1.6,2.0,3.0Gyの放射線を照射し放射線誘導リンパ腫の発症を調べた。照射後6ヶ月において1.6Gy照射ではTgにおいては40%でリンパ腫が発症したがコントロールではまったく発症しなかった。2.0GyではTgが50%、コントロールで30%にリンパ腫の発症が認められ、3.0Gy照射においてはコントロール、Tgともに全例にリンパ腫が発症し発症時期の差はみとめられなかった。リンパ腫の細胞表面マーカーをCD4,CD8で染色して調べたところTg,コントロールともにDN (CD4-8-),DP (CD4+ 8+),SP (CD4+ 8-,CD4-8+)いずれの分画からも発生し特定の傾向はなかった。しかしTgの方が正常胸腺細胞に占める腫瘍細胞の割合いが増加し、悪性度の高い腫瘍が発症していた。以上の結果よりTIAPは生体内で増殖を正に制御しうることが明らかになった。またTIAP/Survivinは発癌のinitiatorとして機能するのではなく癌の悪性化に関与していると考えられる。また低線量の放射線に対して発癌の感受性が亢進していたことより過剰のTIAP/Survivinがゲノムの不安定化に関与している可能性も考えられる。今後、放射線誘導のリンパ腫の発生についてのTIAP/Survivinとその他の細胞周期、細胞死の制御因子との関係について解析をすすめていく予定である。
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