研究概要 |
癌抑制遺伝子p53はあらゆる種類の癌において、その半数以上に変異の検出される転写因子で、その標的遣伝子の転写活性を制御することによって癌抑制機能を発揮する。癌発症の機序解明と有効ながん治療法の開発のためにはp53の生理機能の全貌解明が最も重要であり、そのためには全p53標的遺伝子の単離が不可欠と考えられる。アデノウイルスに組み込んだp53遺伝子の導入により顕著なアポトーシスが誘導される3種類のp53変異細胞株(グリオーマ細胞株・大腸癌細胞株・肺癌細胞株)を用い、p53依存性の発現誘導を示す遺伝子群についてマイクロアレイ法によって解析した。これまでに26の有力な候補標的遺伝子が明らかとなり、順次機能解析を進めているが、これらの中でもSemaphorin3B(Neoplasia 4,82-87,2002),CABC1(Cancer Res.62,1246-1250,2002),IRF-5(Oncogene 21,2914-2918,2002),CyclinK(Neoplasia 4,268-274,2002)は既に論文発表済みである。また、最近我々が明らかとしたp53RDL1はデスドメインドメインを有する細胞膜蛋白質であるが、リガンドとの結合の有無によって、p53依存性アポトーシスを正と負に制御するという、全く新しいアポトーシス制御機構を明らかとした(Nature Cell Biol.5,216-223,2003)。また、p53RFPはリングフィンガードメインを有するユビキチン・リガ-ゼであり、p21^<WFA1>の蛋白質分解に関わる全く新しい細胞周期制御標的遺伝子である(Oncogene in press)。この様に標的遺伝子の機能は多岐にわたっている。最終的には既知p53標的遺伝子と併せて100近くの遺伝子が明らかとなる可能性が高い。 p53はかなり多くの標的遺伝子を様々な状況に応じて使い分け、その多彩な生理機能を巧妙に制御することで細胞の安全な生存を維持しているものと考えられる。最終的に出揃った標的遺伝子群とp53による制御の仕組みの解明によって、その癌抑制機序の全貌が明らかとなるであろう。このことは、発癌機序解明において強力な手がかりを与えると考えられる。また、アポトーシス関連標的遺伝子を応用した遺伝子治療は、これまでp53遺伝子治療耐性であった癌細胞においても新しい戦略を可能にすると考えられる。
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