研究概要 |
1,ヒト大腸癌由来培養細胞株HCT116,DLD-1での発現実験系において,野生型p110γの外来的な発現はコロニー形成能(増殖能)の低下,ヌードマウス皮下での腫瘍形成能の低下を引き起こした。 2,P110γのN末端欠失変異体は細胞内で安定した発現を確認できなかった。 3,p110γは3つの機能ドメイン,すなわち,Ras結合ドメイン,リン脂質との結合に関与するC2ドメイン,キナーゼドメインを有する。これらに加え,結晶構造解析により見いだされた特徴的なヘリカルドメインとN末端領域の5種類のp110γ部分断片の発現ベクターを構築し,それらの導入細胞にて,フォーカス形成能,コロニー形成能の評価を試みた。その結果,p110γのRas結合ドメイン(216-312aa)あるいはキナーゼドメイン(726-1092aa)のみの発現も,全長p110γ(1-1102aa)と同程度のコロニー形成能の低下を導いた。 4,Rasとそのエフェクターとの結合をp110γが遮断することにより増殖抑制が導かれる可能性を検討した。結晶構造解析の結果から,Rasのefector domainとの結合に関与しているものと推測されるThr232,Lys251,Lys254,Lys255,Lys256への変異導入体(T232D/K251A/K254S/K255A/K256AおよびT232D/K251E/K254S/K255A/K256Aは,野生型と同レベルのPI3K活性を示すが,Rasと結合できない)は野生型p110γと同等の増殖抑制活性を示した。また,野生型p110γの発現はKi-ras欠損DLD-1細胞の軟寒天培地内でのコロニー形成をも抑制した。 5,p110γのC末端からの欠失変異体の作用を検討した。その結果,C末端に存在するキナーゼドメインを欠く変異体は全て,増殖抑制活性を喪失した(この中にはRas結合ドメインを含むものが3種存在する)。一方で,キナーゼドメインへの点変異導入によるPI3K活性不活型p110γの発現は,野生型p110γ発現と同等の増殖抑制作用を示した。 以上の結果から,p110γはキナーゼドメインを含むC末端領域を介して,しかしキナーゼ活性非依存的に,細胞増殖抑制および癌細胞形質の改善を導くことが明らかになった。
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