研究概要 |
本年度は以下の諸点を明らかにした。 1 申請者らが189例の症例を用いたRetrospective studyにより確立したCEAを指標とした定量的リアルタイムRT-PCR法(Kodera Y, Nakanishi H. et al., Ann. Surg. 2002)の標準化を図るため、昨年度作成したリアルタイムRT-PCR法の共通プロトコールに基づく多施設共同研究(3施設339症例)を行なった。経過観察期間などに違いはあるものの3施設とも細胞診陰性、PCR法陽性症例の予後はPCR法陰性症例に比べ有意に不良で申請者らのこれまでの結果が確認された。(厚生労働省がん研究助成金、笹子班、班員)。また本法の臨床的有用性を検証するために上記Retrospective studyにより決定したcutoff値をもとにProspective study(厚生労働省認可の高度先進医療)を現在行っている。これまでのところ約100例の症例の収集をおこない、予後の判明している腹膜転移陰性、細胞診陰性症例約70例を解析し、PCR法陽性症例の予後が陰性症例に比べ有意に不良であり、多施設共同研究と同様、申請者らのこれまでの結果が確認された。 2.上記リアルタイムRT-PCR法を胃癌のリンパ節微小転移の検出にも応用し(Kubota K, Nakanishi H. et al., Int. J. Cancer, in press)本法がHE染色や免疫染色に比べ高感度な検出法であり、腹膜転移以外の微小転移の診断にも有用であることを示した。 3.GFP(緑色螢光タンパク)遺伝子導入ヒト胃癌の腹膜微小転移モデルを作成し、微小転移の経口5-FU系抗癌剤(TS-1)に対する化学療法感受性を検討した。微小転移は進行した腹膜転移に比べ化学療法に感受性が高く、治療により15匹中4匹のマウスで転移巣が消失し、マウスの生存率が有意に改善されることを明らかにした(Nakanishi H. Mochizuki Y. et al.,Cancer Sci.,2003)。またタキサン系抗癌剤の腹腔内投与の微小転移抑制効果についても検討中であり、5-FU系抗癌剤を上回る良好な結果が得られつつある。 4.EGFRのチロシンキナーゼ阻害剤(Iressa)に高感受性、低感受性のヒト胃癌細胞株を樹立した。これらを用いて胃癌の腹膜転移に対する分子標的治療について検討を開始した。 以上、遺伝子診断により微小転移ハイリスク群を選別し、それらの患者に対して最近開発された奏功率の高い化学療法を至適ルートで施すことにより従来不可能とされてきた腹膜再発を阻止し、生存率を改善することが可能であり、腹膜転移に対する有望な治療戦略になりうることを実験的に示した。
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