研究概要 |
我々は7系統のラットを用いて4NQO誘発による舌癌発生実験から、Dark-Agouti(DA)ラットは極めて感受性が高く、一方Wistar/Furth(WF)ラットは低感受性であることがわかった(Jap J Cancer Res,1992,1996)。この舌癌モデルを用いたQTL解析より舌癌感受性を示す遺伝子座Tscc1-5(Tongue Squamous cell carcinoma)をマップすることができた(Cancer Res,1998,Jap J Cancer Res,2001)。これらQTL解析領域のLOH解析より高頻度のLOHを見出し、Ha-rasの変異は舌癌の大きさと相関することが示唆できた(Int J.Cancer,2002)またTscc1の候補遺伝子であるNQO1遺伝子のDAラットとWFラットのシークエンスを行った結果、Promotor領域にSNPsを見出している(J Nat1 Cancer I投稿中)。 そこで今回、4NQOを4HAQOへ還元する酵素NQO1(Quinone Oxireductase)をコードするNQO1遺伝子の多型性を解析し、ヒト口腔扁平上皮癌感受性との関連に関して検討した。埼玉県立がんセンターとの共同実験により口腔扁平上皮癌患者105例(男54例,女51例:平均年齢59歳),健常者102例(男53例,女49例:平均年齢60歳)の末梢血白血球或いは組織よりDNAを抽出して、NQO1遺伝子に関してダイレクトシークエンス法により、我々はコドン609における点変異(C→T)を見出した。そこでさらにその点変異を含むように設計したPCR-RFLP法を用いて、制限酵素HinfIで処理した。したがって我々は容易に多型性を調べることができるようになったので全検体の検索を行った。その結果、遺伝子多型には野生型(wt/wt)、ヘテロ変異型(wt/vt)およびホモ変異型(vt/vt)が存在し、癌患者の比は42:49:14、健常者は49:42:1であった。よって酵素活性が完全に欠落した(vt/vt)では癌患者の頻度が明らかに高く、(wt/wt)や(wt/vt)に比べて有意であった(P=0.0013,カイ2乗16.3)。以上の結果より、NQO1遺伝子における変異は口腔扁平上皮細胞癌の発症に強く関連していることが考えられた。このことは癌発症のリスクを認識する上で重要であり、この研究に関する論文がOral Med Patholに受理された。今後は、がん患者の症例数を多くし、また舌がんと喫煙との関係が示唆されているのでさらに本研究においてもNQO1点変異の有無の検索ならびに喫煙歴との関連性を検討する予定である。
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