研究概要 |
サイトカイン受容体およびインテグリンからのシグナルや癌遺伝子の発現によって、化学療法剤による造血器腫瘍細胞の細胞周期停止とアポトーシス誘導機構がどのような制御を受けるかを検討し以下の成果を得た。まず、Burkittリンパ腫細胞株Daudiにおける検討で、topoisomerase II阻害剤etoposideは、細胞周期のG2/M期での停止を誘導すると供に、Daudi細胞に活性酸素種(ROS)の増加をもたらすことにより、ミトコンドリア膜電位の低下からcaspase経路の活性化を経てアポトーシスを誘導することが判明した。Daudi細胞に悪性リンパ腫発症に関与するBCL6を誘導的に発現させると、etoposideによるROSの産生増加は抑制され、アポトーシスも抑制されたが、細胞周期の停止には影響を認めなかった(Kurosu et al.,Oncogene,2003)。一方、Daudi細胞をetoposideで処理するとROS産生増加を介してMAPキナーゼp38が活性化されたが、優性抑制型のp38変異体を誘導的に発現させた細胞では、etoposideによるCdc2のTyr-15のリン酸化によるキナーゼ活性の阻害およびG2/M期での細胞周期停止は抑制され、アポトーシスは亢進した(Kurosu et al.,投稿準備中)。以上より、etoposideによるROSの産生増加は、アポトーシスを誘導すると供に、p38活性化を介してCdc2の活性を阻害しG2/M期での細胞周期停止をもたらす機構を活性化することによりアポトーシスの抑制にも寄与するものと考えられる。また、p38の活性化には低分子量G蛋白であるRacの活性化が関与するが、造血サイトカイン受容体やインテグリンからのシグナルと供に、etoposide等の化学療法剤によってもRac活性化を生じることを見いだした(Kanda et al.,BBRC,2003;Yamaguchi et al.,投稿準備中)。また、サイトカインや白血病発症に関わるBCR/ABLがChk1の発現とetoposideによる活性化を供に促進し、Cdc2活性の抑制とG2/M期での細胞周期の停止を誘導することを見いだし、その意義を検討している。
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