研究概要 |
鳥類やほ乳類の胚発生において,体節に由来する中軸骨格がどのようにして部域化,すなわち胸部にのみ肋骨を持つよう運命づけられていくのか?その機構を知るためには,まず,そのような部域化が体節中胚葉の発生過程のいつどこで起きるかを明らかにしなければならない.これまで我々は,ニワトリウズラキメラ胚を用い、肋骨の形態を指標として実験を行ってきた。これは形態そのものを観察するという点で必須ではあるが、結果が得られるまで長時間かかることや,多かれ少なかれ見られる形態異常によるその解析の困難さなどの難点がある.今年度は,これを克服するため,部域特異的に発現するHox遺伝子の発現を部域化の指標とできるか検証した. 発生段階4から5体節期(発生段階8^+)ニワトリ胚の原条より予定体節中胚葉領域を切り出しそれを正中矢状断して左右2つに分け,ひとつは直ちに,もうひとつは2日間in vitro培養後,RNAを抽出した,これから,RT-PCR法によってHoxA4,A5,A6,A7,D10,D13の発現を検出した.原条は発生段階が進むにつれ,頸部体節から胸部そして腰部体節へと,頭側から尾側へ順にその発生運命が変わっていく.Hox遺伝子の発現も,発生段階のよりあとの原条ほど,より尾側で発現するHox遺伝子の発現が見られた.また,2日間培養したものは,培養前よりも,より尾側で発現するHox遺伝子を発現するようになった.このことは,形態形成能において部域化していることが示された原条の予定体節中胚葉領域が,Hox遺伝子の発現能においても部域化していることを示している. このような分子マーカーを指標とすることにより,実験の期間の短縮がはかれ,より高い再現性が期待されるのみならず,in ovo実験に加えてin vitroの実験系の構築も可能となるのである.今後は,Hox遺伝子群をマーカーにin vitro実験系を活用し,体節中胚葉の部域化を引き起こす組織,因子を検索していきたい.
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