研究概要 |
脊椎動物の内胚葉は前後軸に沿って領域化し,各部分は特殊な機能と形態を持つ器官に分化する.内胚葉の領域化の機構を調べるため,原腸胚期での内胚葉の詳細な発生運命地図を作成した.まず親油性色素Dilの微小結晶を用いて胚盤葉下層を特異的に標識する方法を確立した.ステージ2から3では,原条先端腹側のごく限られた領域のみが胚体内内胚葉に寄与し,それ以外の領域はすべて胚体外内胚葉になった.また胚体内内胚葉になる細胞はすべて中腸もしくは後腸の内胚葉だった.続いてステージ3+では,予定中・後腸領域は胚後方および側方に拡大し,ヘンゼン結節周辺の狭い領域に予定前腸領域が検出された.この領域の細胞は前腸背側内胚葉になることもわかった.次にステージ4では予定中・後腸領域はより広がり,予定前腸背側領域はヘンゼン結節の周りにあり,その側方に前腸側方内胚葉予定域が現れたが,腸腹側内胚葉予定域は発見できなかった.ステージ4でラベルした前腸背側予定域はステージ5でほぼ動かず,前腸側方予定域は側方に移動し,その間にステージ4でラベルされた細胞が決して見つからない領域が現れた.ステージ5でこの領域をラベルしたところ,前腸腹側に寄与する細胞が検出された.これらの結果から,胚体内内胚葉はステージ2からステージ5にかけて予定中後腸領域,予定前腸背側領域,予定前腸腹側領域の順に下層に陥入してくると考えられる.この運命地図では予定前腸腹側内胚葉は,原条からはなれた側方に見つかった.このことは内胚葉が中間層を通って下層に陥入してくる可能性を示している.この仮説を検証するために,ヘンゼン結節のすぐわきをラベルしたところ,この細胞は中間層内を前方,側方に移動してから下層に入り,最終的に前腸腹側内胚葉に寄与した.この結果から,本来中胚葉と考えられていた中間層の細胞が少なくとも一部内胚葉予定細胞であるという新しい知見をもたらした.
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